段ボール紙の表面を細く切り、
断面を横に貼り合わすことにより、
軽やかさが生まれてくる。
無数の穴から差し込む光は互いの干渉で、
縞模様などのモアレが現れる。
人間による消費のサイクルが終わり、
かつて木であった段ボール紙のわずかな記憶の中に、
木洩れ日がある気がします。
植物と人間との切り離すことのできない関係を、
作品から感じてもらいたいと思います。
2022年 横谷研二
横谷研二さんは、長年にわたり段ボールという素材を精妙な空間造形へと変身させる作品を探求しています。
段ボールの内部をなす波型が空気と光を透過する表面へと変換され、その新たな面を組み合わせてできる四角柱が林立すると、それぞれが互いに干渉しあいながら生み出す陰影は、驚くほど豊かな表情を見せます。
さらにそれらが中空に吊るされると、鑑賞者の及ぼすわずかな風を受けてゆっくりと回りだし、静寂のままに無限に変わりゆく光景が、私たちの意識を瞑想の時間へと誘います。
2015年の発表作からは、それまでダンボールの生成りの色だった作品に着彩を施すことで、より鮮烈な視覚効果を生み出しました。
しかし横谷さんが段ボールの造形に取り組んできた動機は、抽象的な造形の探求だけではありません。
高知県土佐市在住の横谷さんは、美術家であると同時に、ユリの花の栽培を生業としてきました。
そして花の出荷の際の梱包材である段ボールもかつては植物であったことに思いいたり、段ボールを新たな森に生まれ変わらせるというイメージからこの作品のシリーズを始めたそうです。
制作過程ではシンプルかつ極めて精度を要する作業の数限りない反復が必要ですが、そこにも横谷さんが植物を育み続けてきた精神性がうかがわれます。
無表情な消費物である段ボールに惜しみなく心を注ぐ横谷氏の作品は、自然から得られるものを躊躇なく消費している私たちが見失いがちなものを、静かに語りかけてくれるようです。
2022年 ギャラリイK(http://galleryk.la.coocan.jp)